即成院が所蔵する平安時代の貴重な仏さまである『観音菩薩跪坐像(重要文化財)』を当時の姿に復元するプロジェクトを保坂紗智子(今春、東京藝術大学文化財保存学専攻卒業:保存修復彫刻修士号取得)・堀金箔粉株式会社(京都府)・即成院の合同で開始致しました。
即成院は泉涌寺塔頭で平安時代から続く古寺で「那須与一」「二十五菩薩お練り供養法会」で知られています。本尊は阿弥陀如来と二十五菩薩からなり、平安期に作られたそれらの像は数々の戦乱や法難を潜り抜け現在にその姿を留め、造像時の技法や仕様を今に伝えてくれています。現存する平安期の菩薩像の秀逸希少さから重要文化財に指定されています。800年間守り続けてきた所蔵する文化財を後世へ残す為に、更に歴史研究の資料として頂く為に力の限り協力させて頂きます。
先年、二十五菩薩の一、『観音菩薩跪坐像』を東京藝術大学文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室の学生が造像時の技法を用いて模刻を行いました。3Dレーザースキャニングなど先端技術を用いて精密に模刻された『観音菩薩跪坐像』は当時の技法などを知る研究資料として重要なものです(※注1)。現在、精密に模刻された『観音菩薩跪坐像』は白木の状態ですが、この後は平安時代当初のお姿にさらに戻して行く金箔を貼る作業へと進行します。
保坂紗智子堀金箔粉株式会社さまにはその模刻された像を歴史研究の資料と活かすべく、金箔の無償提供を含め、持てる技術で完全復元の為のバックアップをして頂いております(※注2)。また、堀金箔粉株式会社は襖絵・絵画の複製事業で実績を重ねてこられましたが、漆塗りの立体物の取り組みへの協力は即成院の仏さまが初となるとお伺いしております。大変有り難く感謝申し上げます。
この『観音菩薩跪坐像』復元プロジェクトを通して、造成過程の確認、当時の歴史資料と造成方法による年代測定、失われた技法の復活、そしてなにより、現在も風化に晒されている貴重な文化財の当時の技法を用いた保護・修復技術の確立などを目指し、東京藝術大学文化財保存学保存修復彫刻研究室さま、堀金箔粉株式会社さまのご協力を得て、即成院は皆様と共に、次代に護り伝えたい伝統と文化、歴史を繋ぐ若い人達を応援したいと考えております。
※注1 調 査 日 :平成22年1月28日
調査研究代表者:薮内佐斗司(東京藝術大学教授)
主な調査者 :藤本青一(財団法人美術院所長)
江里康慧(仏師:平安俳所)
※注2 <平安時代~2011年現在まで「純金箔」の仕様比較>
金加工品の仕上がりは箔自体の大きさ・厚みにより大きく左右される。当時は職人の手加工により生産されていたため、厚みも現在のものに比べると厚く(※)ムラもあり、今日の箔ほど広い面積を造ることができなかった。
また、金の純度も現在の規格とは異なる。
※ 厚 さ/平安時代後期の箔は約3倍の0.6μ。現在は0.2μ。
※ 大きさ/平安時代後期の箔は約75mm角。現在は109mm~127mm角。
「観音菩薩跪坐像」復元記事
堀金箔粉株式会社様ホームページ
観音菩薩坐像模刻風景